保育園、不審者訓練のねらいは?実際に行っていることや対策について
近年では子どもを標的にした物騒な事件が多く報道され、不審者対応や保育園のセキュリティ強化が大きな課題となってきています。
このような状況に伴い保育園でも以前は火事や地震をメインとして行われていた避難訓練に不審者訓練の実施が組み込まれるようになり、
保育園の方針や保育士の対応も改めて見直されて強化されているのが現状です。
そこで今回は保育園における不審者訓練とはどういうものなのか、
訓練のねらいや実際に訓練として行っている内容などを私の保育士として勤務していた頃の経験談も交えながら紹介していきたいと思います。
保育園における不審者の定義って?
保育園における不審者の定義や見極めとしては以下の4つの条件があげられます。
この条件の中に1つでも当てはまったり、保育士が気になる存在だと認識すると警戒を高めるようにしています。
子どもに執拗に声をかけてくる
普段、保育中に戸外散歩をしたり公園で遊んだりしていると近所の方や
通りすがりの方が挨拶や声掛けをしてくれることはもちろんあります。
ここで言う執拗な声かけとはそのような声かけではなく、子どもに不用意に近づいてきて
「お家はどこなの?」「ママとパパは一緒なの?」という個人情報を聞き出すようなものや
「これから車に乗って楽しいところにいかない?」「一緒にお菓子(おもちゃ)を買いに行こうよ」
などと明らかに不審かつ子どもを誘惑するような声かけを指します。
子どもの身体に触れようとしてくる
子どもに声をかけながら近づいてきて、周囲の大人たちの目線を気にしながらも子どもの手を引いてどこかへ連れていこうとしていたり、
必要以上にベタベタと子どもの身体に触れようとするそぶりを見せてくる見知らぬ大人も警戒対象に入ります。
写真を撮ろうとしてくる
「写真だけで?」と思うかもしれませんが、今はスマホでいつでもどこでも簡単に写真が撮れる時代です。
更にその写真をSNSやネットですぐに不特定多数の人に向けて拡散することができる状況にあることも事実ですよね。
子どもの顔写真は個人情報にあたりますし、写りこんでいる背景から生活圏や居住エリアが
分かってしまうような写真は気軽に撮影したものであっても二次的な犯罪に巻き込まれる
危険性も高く、保護者の方も一番神経質になっている部分でもあることから、
盗撮は言わずもがなですがいくら悪意がなく「可愛かったからつい…」という理由であっても撮影は常にお断りするようにして対応しています。
園舎に侵入し、子どもや職員に危害を加えようとしている
このような人が保育園に現れた場合には完全に不審者と判断することになります。
子どもの安全を第一に考えて、毅然とした対応をとるように徹底し、必要に応じて通報や避難を行います。
不審者訓練のねらいについて
不審者訓練を実施するねらいについて、子どもと大人のそれぞれの立場に分けて説明していきます。
・子ども側に期待するねらい
急に見知らぬ大人に声をかけられたり、力で制圧されそうになったりするとどうしても恐怖と
衝撃で頭が真っ白になり普段通りの判断や行動ができなくなってしまいます。
時には不安や驚きから泣き出してしまったり、パニックで逃げまどい保育士のそばを離れて単独行動をしてしまったりする子もいるでしょう。
何十人と子どもがいる保育園で、子どもたち全員がそれぞれパニックに陥って逃げまどってしまっては
保育士も安全を確保できない状況になり不審者が迫っている中で非常に危険です。
そこで常日頃から不審者訓練を実施することで子どもたちにも不審者とはどういう人のことを言うのか、
不審者らしき人に出会ってしまったらどうすればよいのかをその都度分かりやすく丁寧に説明することで、
実際に不審者に遭遇するような事態になった時にも子どもなりに正しい対応がとれるようすることをねらいとしています。
不審者に慣れてしまい危機感が薄まってしまうことは良くないですが、
不審者と遭遇したシチュエーションでの対応を知って慣れておくことは子ども自身が自分の身を守るためにも
最低限必要なことであるという判断から、定期的に不審者訓練を実施しています。
・保育士側が達成すべきねらい
大人目線だと不審者訓練を行うことに対しては
「不審者対応マニュアルもあるし、万が一何かあってもきっとうまく対応できるはず」
「警備会社もいるし、すぐに助けが来るはずだから大丈夫」
という認識を持っている方もいるかもしれません。
しかし実際に不審者が現れるとその常軌を逸した雰囲気や明らかに殺気のある表情などに圧倒されてしまい保育士も委縮してしまう可能性があります。
さらに不審者が男性の場合には大声を出されて暴れられたら力でも負けてしまいますよね。
このように保育士が恐怖を感じて混乱してしまったり、
不安な気持ちを持っているとそのような雰囲気は必ずそばにいる子どもたちにも伝染します。
恐怖や不安があるのは分かりますが、子どもがいる手前とにかく気丈に強く振舞うことが大切になってきます。
以上の点から保育士目線としては不審者の情報をいち早く共有し、
子どもの安全を最優先させた避難の方法や対処法を冷静に判断して実行に移すための経験を積んで万が一の
不測の事態に備えられるようになることが不審者訓練を実施するねらいと言えるでしょう。
訓練で実際に行っていることは?
ここでは不審者訓練の流れや実際に私が勤務していた保育園で訓練担当が行っていることを紹介していきます。
・不審者との遭遇
私の勤務先では近隣警察署の警察官の方が訓練日に合わせて来園し、訓練に協力してくれていました。
当日は警察官の方が不審者役となり、身なりや雰囲気も不審者になり切って園内に侵入してきたり、
街中で声をかけてきたりするところから訓練が始まります。
特定の子どもをターゲットに近づいてくるパターンもあれば、
園内に侵入し大声をあげて偽物ですがリアルに作られた刃物などの武器を振り回すパターンもあり、
訓練だと分かっていても緊張感や恐怖感がおおいにあったことを覚えています。
・保育士間での不審者情報の共有
不審者に遭遇したことを合言葉や各クラスに設置された内線電話を通して担任保育士が情報共有し、
子どもたちに知らせて安全を確保の態勢に入ります。
・避難、通報訓練
必要に応じて子どもを安全な一か所の場所に避難させたり、保育室を戸締りしたりするなどして不審者への対応策をできるだけとります。
その間に園長や主任保育士など、通報しやすい場所や状況にある職員が警察に不審者がいることを通報します。
通報ができない状況にある場合には近隣の方に助けを求めます。
・子どもたちへの指導
これまでの流れを通して、不審者が退散するか、警察に捕まるかのどちらかの結末を迎えたところで訓練は終了です。
訓練後は人数確認の点呼をしてから、子どもたちへ簡単な安全指導や不審者対応に関するお話をして訓練完了となります。
不審者訓練の際に子どもたちに教える対応の合言葉としては「いかのおすし」が有名です。
これは火事や地震の際に用いられる合言葉「おかしも」と同様に子どもがすべきことの頭文字をとって覚えやすくしたものです。
つまり「いかのおすし」は「(着いて)いかない・(車に)のらない・おおきな声を出す・すぐに逃げる・(大人に)知らせる」
ということになり、これを子どもたちと話の中では必ず確認するようにしています。
自然災害を想定した避難訓練や、関しては別記事、保育園での避難訓練のねらいとは?指導案や計画書について
にも記載がありますので参考にしていただければと思います。
日頃から対策していることってあるの?
最近は物騒なニュースも多く、他人事とは思えない事件も発生していることから、
保護者の方も「万が一うちの子が不審者に会ったらと思うと不安で仕方がない」「保育園ではどう対策してくれているのか知りたい」という声も多く聞きます。
ここでは不審者対応として保育園が日常的に行っていることを3つ紹介していきます。
・園児の送迎時の保護者の顔や身分の確認の徹底化
保育園は朝と夕方、送迎のピークタイムにはたくさんの人の出入りがあります。
もちろん保護者の方以外にも出入り業者や宅配業者の方が定期的に訪れています。
保育園は会社やイベント会場ではないので、必ず受付を通って身分証を見せて入場を許可されるというようなシステムはありませんが、
その代わりに在園児の保護者の顔と名前は職員全員が周知しているという特徴があります。
私が勤務していた保育園では入園時に保護者の就業証明など身分を証明する書類と一緒に顔写真も提出してもらうようにお願いしていました。
ママとパパはもちろん、送り迎えに祖父母や両親の兄弟といった親戚の方が来ることがある場合には
そのような方の写真と名前も事前に提出してもらい、
確認がとれない方には例え本当の家族であっても子どもを引き渡さないように徹底していました。
保護者の方も防犯上の理由ということで理解してくれる方がほとんどで、快く写真を提出してくれていましたし、
近隣の不審者情報や物騒な場所などもこまめに保育園に教えて協力してくれていました。
・園舎のセキュリティ強化
園舎の門や玄関扉は毎回自動で施錠されるようにし、保護者と職員だけが知る暗証番号やICカードで
ロックを解除しないと入れないようなものにしたり、インターホンをカメラ付きのものにして
見知らぬ人の園舎への侵入を極力防げるようにしている園が増えてきています。
他にもゲート前や駐車場、死角になりやすいところに防犯カメラを設置したり、
警備会社と契約したりしてセキュリティ強化を図っているところも多いです。
園内の設備としては非常ベルを各クラスに設置したり、さすまたや催涙スプレーなど女性でも使いやすい武器を色々と揃えたりしています。
・万が一に備えて内部の人しか分からない合言葉を決める
不審者が来た時、大声で「不審者です!」と叫べば不審者を刺激する危険性もあります。
そこで職員だけに分かるような隠語を設定している保育園も多いです。
私の経験から「不審者です=タクシーが来ます」「助けを呼んでください=出前をお願いします」というものがありました。
他にも不審者対策で部屋を施錠し身を潜めており、不審者がいなくなってもう隠れなくて良いことを知らせる時には
外にいる人が「虹が出ました」ということが合図になっているところもありました。
リアルな恐怖感や緊迫感を味わうことで意識を高める
不審者訓練は大人も子どもも不審者と遭遇するシチュエーションをリアルに体感することで、
その中でどれだけ冷静かつ子どもの安全を第一に考えた対応ができるかを知ることをねらいとして定期的に実施されています。
継続実施することで経験を重ね、本番に最もベストな対処ができるように感覚や動きを鍛えておきましょう。
不審者訓練は実際の警察の方も協力してくれ、臨場感たっぷりに不審者を演じてくれるとても貴重な機会です。
また訓練後はお巡りさんからのお話が聞けるため、子どもにとっても良い経験になる訓練だと思います。
たかが訓練…と思わずに防犯に対する意識を高めて、真剣に訓練を積み重ねることを心掛けるようにしてくださいね。